—泌尿器の新しい選択肢をやさしく解説—
「ボトックス」と聞くと美容のイメージが強いですが、同じ成分(ボツリヌス毒素A:BoNT-A)は膀胱の“過敏さ”をしずめる治療としても使われます。薬が効きにくい、口渇や便秘などの副作用で内服を続けにくい——そんな過活動膀胱(OAB)や、脊髄損傷・多発性硬化症などに伴う神経因性膀胱の方に、世界的に広がってきた選択肢です。
どう効くの?
膀胱は尿をためる“袋”でありながら、刺激に弱いとキュッと縮んで「今すぐトイレ!」を引き起こします。BoNT-Aは神経から筋肉への信号(アセチルコリン)を一時的にブロック。
- 余計な収縮が減る → 回数・切迫感が落ち着く
- 感覚神経の過敏さにも作用 → 急な我慢しづらさが軽くなる
効果は可逆的で、時間がたつと自然に切れていきます。
治療の流れ
外来で膀胱鏡を使い、膀胱の壁に少量ずつ細い針で数か所注射します(局所麻酔や鎮痛で対応)。処置自体は短時間。
- 数日~数週間で効き始め、3~9か月ほど持続(個人差あり)
- 効果が切れてきたら繰り返し投与が可能です
どんな人に向いている?
- 昼夜のトイレ回数が多い/突然の尿意で困る/尿漏れがある
- 内服治療で効果不十分、または副作用がつらい
- 神経疾患などで膀胱が過敏に働いてしまう
逆に、**もともと膀胱の押し出す力が弱い(残尿が多い)**方は注意が必要です。
副作用と注意点
一番注意するのは一時的な排尿困難・尿閉。まれに自己導尿が必要になることがあります。そのほか尿路感染、少量の血尿、頻尿の一過性悪化など。全身に広く回って顔がこわばる…といった美容のイメージの副作用は通常起こりません(局所作用です)。
妊娠中・重症筋無力症など一部の疾患では適応外。抗凝固薬を使っている方は事前調整が必要です。医師と必ず個別に相談しましょう。
よくある誤解
- 「一度打つとやめられない?」 → 効果は時間とともに自然に薄れる可逆的な治療です。
- 「痛そう…」 → 細い針で短時間、麻酔を併用します。多くの方が想像より負担が少ないと感じます。
- 「美容のボトックスと同じ?」 → 成分は同じ系統ですが、狙う場所・量・目的が全く違う医療行為です。
生活でできる併用ケア
効果を長持ちさせるため、カフェイン・アルコールの調整、就寝前の水分タイミング、骨盤底トレーニング、尿日誌(アプリでもOK)を組み合わせると◎。医療+生活の両輪でQOLが上がります。
まずはチェック
- 1日に8回以上トイレに行く
- 夜中に1回以上起きる
- 急な尿意で間に合わない/漏れてしまう
当てはまるなら、泌尿器科で相談を。内服・行動療法・電気刺激などの選択肢に、BoNT-A注射が“次の一手”として加わります。あなたの生活に合う治療の組み合わせを、一緒に見つけていきましょう。
※本記事は一般向けの解説です。最適な治療は症状・基礎疾患・服薬・生活背景により異なります。具体的な適応や費用、保険の扱いは受診先でご確認ください。
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